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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)204号 判決

東京都三鷹市井の頭三丁目三三番二号

上告人

武藤郁子

右訴訟代理人弁護士

宮下明弘 宮下啓子

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被上告人

武蔵野税務署長 青山泰三

右指定代理人

村川広視

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行コ)第二八号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成六年六月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宮下明弘、同宮下啓子の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、原判決を正解しないで、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)

(平六年(行ツ)第二〇四号 上告人 武藤郁子)

上告代理人宮下明弘、同宮下啓子の上告理由

第一、租税特別措置法三七条第一項に規定する特定の事業用資産については、現実に事業の用に供されているもののほか、事業への現実の供用を了した後においても、相当の期間内はいまだ事業用資産としての性質を失うものではないと解するのが相当である(裁決昭和五五年二月五日裁決事例No.19 124ページ)。

原審及び第一審の判決、事業用資産は「原則として、資産が譲渡された当時、現実かつ継続的に事業の用に供されているものをいうと解すべき」とする。

しかし、資産の種類によっては、譲渡時点で現に事業の用に供されていないことの方が圧倒的に多いものもある。右のような資産については、事業への現実の供用を了した後においても、例外として認められるべきものでなく、個々の事案をケースバイケースで判断するべきものである。

譲渡すべき資産が、本件の如く駐車場用地であった場合においては、土地の買受人が、土地をそのまま駐車場として利用することはまずありえず、土地上に建築物を建てて利用する計画を有することが殆どである。

土地、就中駐車場用地にあっては、当該譲渡資産の利用形態は、常に譲渡前と譲渡後で異なることに注意されるべきであり、駐車場用地は、譲渡にあたっては、必ず事業の停止を伴う資産であることについて、原審及び第一審判決は全く認識を欠き、事業用資産を、「原則として、資産が譲渡された当時、現実かつ継続的に事業の用に供されているものをいう」としたその判断には重大な事実誤認があり、且つ法律の解釈適用が違法であるものというべく、到底破棄は免れないと思料する。

第二、租税特別措置法第三七条第一項に規定する特定の事業用資産については、現実に事業の用に供されているもののほか、事業への現実の供用を了した後においても、相当の期間内はいまだ事業用資産としての性質を失うものではないと解するのが相当であって、どの程度の期間が相当であるかは個々の事実関係について当該資産の種類、構造等の特性、事業の用に供されなくなった理由、その後における当該資産の現状及び使用目途等を総合判断すべきである。

この点について、原審は同判決三丁裏面から同四丁裏面三行目にかけて次のとおり判示する。

「しかしながら、「事業用資産を買い換えるためには、その準備として、これを事業の用に供することを停止する必要がある場合があるとしても、右供用停止後も事業用資産としての性質を失わないというためには、買換えを図る目的による供用停止後譲渡までの期間が、買換え(これは「譲渡する」の趣旨か?)の準備をするために要する客観的に相当の期間内でなければならないと解される。そして、前記のとおり、本件駐車場の設備等からすれば、その事業停止後、これを譲渡するための準備にそれほど時間を要するとは考えられない。駐車場利用者との契約関係の解消も何ら困難ではなく、短期間に可能であるのが通例である。」「従って、控訴人(上告人)としては、本件土地の売却について、ある程度の目処がついた時点で本件駐車場事業の停止をしても何ら支障はなかったはずである。ところが、控訴人(上告人)は、昭和六二年七月の時点における本件駐車場事業の停止を了解し、事業を再開する試みも全くしていないのであるが、右時点における事業の停止は、買換え(「譲渡」の趣旨と理解する)の準備をするために客観的に必要であったと認めることはできない。以上のような理由によって、本件事業停止から売却までの約一年九か月という期間は、買換え(前同)の準備をするために要する客観的に相当な期間であるということはできない」とし、さらに同判決四丁裏面4行目から五丁裏面九行目にかけて、次のとおり判決する。

「本件土地の売却の準備として、控訴人(上告人)が主張するように、境界確定、測量、分筆、遺産分割協議、国土利用計画法に基づく届出等が必要であり、これらの手続に相当の期間を要することは明らかであるが、これらの売却準備行為や遺産分割協議は、本件駐車場事業を停止した後でなければできないというものではないから、供用停止後譲渡までの買換えの準備に要する客観的に相当な期間とはどの程度の期間であるかを考えるに当たって、これらの手続に要する期間を考慮する必要はない。

また、控訴人(上告人)は、遺産分割調停成立後に本件土地を売却する予定であったので、新たに事業に供さなかった旨主張するが、右のとおり、本件土地を売却するためには昭和六二年七月の時点で本件駐車場事業を停止しなければならない事情は全くなかったのに、控訴人(上告人)がこの時点における事業停止を了解し、再開の試みをしていないことからすると、控訴人(上告人)には当初から本件駐車場事業を継続する意思はなかったものと推認される。」

一、右判断には、次の二点において法令適用の誤りを招来する重大な事実誤認が存する。

〈1〉「控訴人(上告人)が、昭和六二年七月の時点における本件駐車場事業の停止を了解し」(原審判決四丁目表七及び八行目)「本件土地を売却するためには、昭和六二年七月の時点で本件駐車場事業を停止しなければならない事情は全くなかったのに、控訴人(上告人)がこの時点における事業停止を了解し」(同五丁目表四行目乃至七行目)たとしている点。

〈2〉「事業を再開する試み」をしていないことを控訴人(上告人)に当初から本件駐車場事業継続の意思がないものと認定する理由としていること。

二、先ず、右〈1〉の点について論ずる。

本件全記録を詳査しても、どこにも上告人が、昭和六二年七月の時点における伊井による事業停止を了解していたという事実は見当たらない。

むしろ、昭和六二年七月一四日に伊井が上告人らの了解をとらずに無断で賃貸借契約を解除し引続き亡塚田停市の居住していた家屋を取壊し整地とようとしていたことを知った上告人が、昭和六二年七月二三日付で、本件土地について処分禁止の仮処分を申請(甲第一二号証)し、同月二四日付で仮処分決定を得ている事実が明らかとなる。

右の時点で、本件土地について遺産分割協議が整っていなかったことは争いがなく、遺産分割協議をする前提として、本件土地の名義を真の所有者であった被相続人塚田停市の名義に回復するべきであると主張する上告人と、これに異を唱え名義回復を了承しなかった伊井の対立が鮮明となった(甲第三八号証八ページ(八)、甲第一三号証の二)。

伊井は、右上告人の主張を実力行使で封じるべく、権利証その他の重要書類及び相続開始後の駐車料金まで、塚田豊子らから取り上げようとし、且つ駐車場事業を停止させ整地の上売却してしまおうとしたものである(甲第一三号証の二)。

右の対立が鮮明になる前には、相続人間では塚田豊子らの住む敷地を分筆して、代襲相続人である亡塚田昇の遺児に相続させ、残りの土地を他の相続人で取得する――現物分割は不可能であるから、四名で取得して共同で売却して売却代金を分配するしか途はないであろうとの漠然としたコンセンサスはあった。

しかし、具体的な遺産分割や売却の方法等の話し合いをする以前に、前記伊井の蛮行が行われたのである。

上告人は、右伊井の蛮行に驚き、且つこれに反対であったからこそ、わずか九日後に仮処分申請に及んだのである。

右の時点における賃貸借契約解除即ち事業停止を、上告人が了解していたら、上告人による仮処分申請がこの時点で行われるわけがあろうか。

この点を看過して、「上告人が、この時点における事業停止を了解し」ていたと認定する原審判断は、理解に苦しむ。

なお、第一審判決が「原告(上告人)は、伊井に対し、同人が立て替えた本件土地一上の家屋解体費用、本件土地の整地費用等を支払ったことに鑑みると、原告(上告人)は、伊井が、本件駐車場事業を停止したこと自体については、本件土地を売却するための準備行為の一環として了解していたものというべきである。」とするが、右認定は誤りである。

最終的に解体、整地費用を売却の経費として負担すること即ち解体の時期等の早い遅いはあるにせよ、いずれ売却のためには解体、整地をしなければならなかったので、この分は伊井に対して支払わなければ上告人らの不当利得になるというものであろう。

右支払をもって、上告人が伊井による昭和六二年七月の時点において事業停止を了解していたと認定するのは、重大な事実の誤認である。

三、〈2〉の点である「事業を再開する試み」をしていないことを上告人に当初から本件事業・事業再開継続の意思がないものと認定していることに反論する。

本件土地は、当時法的には遺産分割が未了であり、相続人全員による共有状態にあった(講学上はいわゆる含有)。

従って、現状を変更するには、遺産分割協議をなし、取得者を決めた上でこれら取得者(遺産分割終了後も共有になる)全員の同意を要する(民法二五一条)ことになる。

上告人は、伊井の蛮行に対して当時の譲渡代理人に原状回復の途を尋ねたところ、所有権の確認及び遺産分割を経なければならぬこと、並びに係争中であるため勝手に上告人が行動に及ぶことは許されぬことを知らされ、右の共有状態の難しさ、並びに不法を自力で回復できぬジレンマを知った経緯が存する。

なお、右にもふれたとおり、本件土地は所有権をめぐって仮処分がなされ、本案訴訟が継続している土地であった。

所有名義人であった伊井は、右本訴では自分の所有権を主張はしなかったもの、亡停市の所有権は認めず(甲第一七号証の三ページ一〇行目及び一一行目ご参照)、無断で所有者の建物を取壊し、事業を停止させるような蛮行を平然と行う人物である。

加うるに、右本訴は、和解でもなく請求の認諾でもなく判決を言い渡すことによって終了したのみならず、亡停市への所有権回復登記が伊井の協力によらず(即ち、伊井が自らの印鑑証明と登記用の委任状を提出することなく)、判決による単独申請でなされたことは、第一審判決がその第一〇丁裏第一〇行で摘示するとおりである。右事実は、伊井が被相続人に本件土地の名義を回復することについて、協力をしなかったことを表すことに他ならない(伊井が自らの印鑑証明と登記用委任状を提出すれば、判決を得なくとも登記名義を回復し得た。伊井の協力がない以上、判決に基づき登記する以外方法はない)。

右のような状況によるにも拘らず、事業停止後、事業を再開せよとするのは、係争物件を敢えて名義が係争のまま、しかも遺産分割前の土地とであるにも拘らず、相続人の内一人をして他人に賃貸せよと迫るに等しい。

相続人が複数いる相続の一相続人である上告人が、遺産分割未了であり、且つ係争物件となっている本件土地を、再度事業の用に供し、又は供する試みをしなかったことについて、これを事業継続の意思の有無の認定材料にすることは、馬が笑わなかったことに対し、笑う努力をしなかったからとの理由で、屠殺場行きを決めるに誓い論理であると考える。

第三、「相当の期間」を判断するについて、原審判決は土地の譲渡について次のとおりの時間を要することを看過し、法令解釈の誤りをもたらす重大な事実誤認が存する。

一、土地を売却する場合は、境界の確定、これに伴う隣地土地所有者の立会を要し、これを経た上で実測面積が確定する。

従って、譲渡資産が土地の場合は、土地の境界確定、隣接所有者の立会及び測量手続に然るべき日数を要することになる。これらに通常早ければ数週間、関係者のスケジュールが整わない場合は、数カ月を要することも多い。

これに分筆手続が加わると、さらに登記手続に数週間を要することになる。

二、土地が、遺産であり、遺産分割が未了の場合は全相続人による遺産分割協議を行わなければならない。

本件は、相続人による遺産分割の話合いに入ろうとする矢先に、伊井の前記蛮行が行われ、遺産分割協議が事業停止の後にならざるを得なかった。

右の時点の事業停止を、既述のとおり上告人が了解したことは全くなく、上告人の真に責めに帰すべからざる事由により、遺産分割協議及びこれに伴う相続登記が事業停止の後になってしまったのである。

遺産分割協議に然るべき時間を要するのは、法曹関係者においては自明の理であろう。

しかも、これに伴う相続登記(登記に必要な書類の取寄、登記手続)にも、少なからぬ日数を要する。

三、さらに、追い打ちをかけるのは、当時都内区部において一〇〇平方メートル以上の土地の取引に必要とされていた国土利用計画法第二三条一項に基づく届出と、不勧告通知を得る手続である。

届出を提出してから、不勧告通知を得るまでに六週間以内という日数を要する他、届出には全当事者の自署、捺印が必要であるから、全当事者に一通の届出書を持ち回して署名捺印するだけでも、早くて二週間を要してしまうのである。

一乃至三の各手続の詳細は、上告人の平成六年五月三〇日付準備書面第一に既に述べてあるので、詳述しない。

四、上告人は、上告人を含む相続人にとって、譲渡の準備の整わないうちに、権利者でない伊井の手によって抜打的に事業を停止されてしまった。

しかし、その後の上告人は、譲渡及び買換にむけて、最大限に迅速に努力をしている。

上告人の行動は、譲渡に向けて一貫した間断なき流れであり、各手続に通常必要な日数をようしているものの、遺産分割協議そのものは、実質的には土地の分筆手続が終了した昭和六三年七月下旬頃から九月下旬にかけての約二ケ月間ですまされ、同じ時期に売却部分の区画と面積が確定した土地の売却についても、右同様売却予定面積の確定した七月下旬からわずか二ケ月の間に目途がつけられていたのである。

各手続や行動の流れを時系列に列挙すると、左のとおりである。

昭和六二年 七月一四日 伊井が駐車場解約に着手

七月二〇日 上告人及び塚田宏昭が、寺島弁護士宛に仮処分用の報告書(甲第一三号証の一及び二)作成

七月二三日 上告人、伊井を債務者として本件土地に仮処分申請

七月二四日 同仮処分決定、伊井により土地が整地される

八月 八日 上告人、伊井に対し土地所有権移転登記請求訴訟提起(甲第一五号証)

九月一三日 右訴訟事件第一回口頭弁論期日、伊井答弁書提出(甲第一七号証)

一〇月 上告人、被相続人亡停市の遺産分割調停申立(甲第一八号証)

一二月 右第一回調停期日

一二月下旬 本件土地を含む遺産の土地測量を土地家屋調査士に依頼

昭和六三年 一月一三日 測量実施。但し、近隣土地所有者の立会は得られず(甲第一〇号証)

四月一三日 近隣土地所有者の境界立会(甲第一一号証)

七月一四日 分筆登記申請

七月末頃 分筆登記完了

右登記完了後、直ちに上告人の依頼していた寺島弁護士が、事実上土地の売却活動を始めた。

九月二七日 前記訴訟の判決言渡期日

九月二九日 寺島弁護士は、同日までに本件土地の売却について、坪当り一八五万円で売却できることで売買の約束を取付け、これを上告人の夫武藤孟夫に報告する。同時に遺産分割協議も整ったが、前記判決が確定しなければ土地を被相続人の名義に回復できないため、調停調書の作成のみ次回期日におくる(甲第四八号証の一五)。

一〇月中旬乃至下旬頃

前記判決確定。

一一月 四日 右判決に基づき、本件土地を故停市名義にするべく所有権移転登記申請

一一月中旬頃 右所有権移転登記完了

同 一六日 右登記の完了後、登記簿謄本の入手を待って、遺産分割調停成立。

同日、不動産売買の媒介依頼書に捺印(それまでは、契約当事者を確定しうる資料がなかったので、依頼書を作成しなかった)。

同月下旬乃至一二月上旬

相続登記に必要な戸籍関係書類等を取寄

一二月一四日 本件土地につき相続登記申請

一二月乃至平成元年一月上旬頃 相続登記完了。相続登記済みの登記簿謄本入手

平成元年一月中旬乃至下旬

訴外佐藤綾子他一名野代理人今野弁護士から、訴外伊井昌子の代理人錦織弁護士宛に、国土利用計画法第二三条一項に定める届出書及び同書に添付する委任状を発送。

以後、右錦織弁護士→伊井→上告人→今野弁護士の順序で署名捺印して郵送されて、今野弁護士の手元に返送された(甲第二三号証)。

なお、訴外今野弁護士から前記書類が錦織弁護士に発送された時点では、右書類には今野弁護士の依頼者の前記佐藤他一名が既に署名捺印を了してあったから、右二名の署名捺印を得る必要な日数が右届出郵送日までに経過済みであった。

国土利用計画法第二三条第一項に基づく届出書(甲第二四号証)には、売買するべき土地の面積、m2当りの売買予定価額、売買予定総金額並びに実測精算の要否等まで詳しく記載させられるので、届出書を記入する時点では、売買契約の諸条件が両当事者間で決められていることにる。

本件譲渡は、昭和六三年九月二九日に寺島弁護士が、訴外武藤孟夫に架電し報告したとおりの売買金額どおりに国土利用計画法の届出もなし、且つ成約もしたことから、右時期には売買の合意は出来ていたものであることがわかる。

少なくとも、国土利用計画法の準備及び手続に費やせられた、平成元年一月から三月下旬までの二ケ月乃至三ケ月弱の期間は、正に国土利用計画法による届出が不要であれば、省けた日数であることは、十分に考慮されるべきである。

二月 八日 訴外有限会社小野寺商店を買受人とする国土利用計画法の届出書提出(甲第二四号証)

二月二二日 右届出につき不勧告通知受領(甲第二五号証)

二月二三日 訴外株式会社小野寺商店を買受人とする国土利用計画法の届出書提出(甲第二六号証中に記載の届出日ご参照)。

右訴外会社を買受人とする届出が遅れてなされたのは、同社が買受ける土地が九四・三一平方メートル(甲第二八号証の契約書ご参照)であり、国土利用計画法の届出が必要とされていた一〇〇平方メートルを下廻っていたことから、不動産業者は届出が必要ないと考えて有限会社小野寺商店との取引にのみ届出をしたところ、右商号からも推認される如く、右買受両会社は関連会社であったことから、両取引は一団の土地についての取引とみなされ、従って一〇〇平方メートルを下廻る株式会社小野寺商店との取引についても届出が必要として、役所から指導があったことによる。

三月二〇日 株式会社小野寺商店との取引につき、不動告通知を受領する(甲第二六号証)。

四月 一日 売買契約調印、一括で当日全ての取引を終了。

以上で明らかなとおり、各手続は間断なく速やかに行われている。土地の所有者が四名であったため、どの手続をなすにも各四倍の手間と日数が必要であったことも忘れてはならない。

事業停止は、権利者でない伊井の手によって手売却代金の配分交渉を有利に導くため、伊井に同調せぬ上告人らに知られぬ間に売却していまい、売却代金を自らの懐に確保した上で売却代金配分を恣意的に且つ伊井及び伊井の妻である相続人伊井昌子が主導権を握って運ぼうと、上告人に抜打でなされてしまったのである。

上告人が、名義回復、遺産分割、境界確定、測量及び分筆等を、事業停止の先にしたくても出来なかったものであることを、原審判決を見落としている。

上告人は、伊井の蛮行の後、前述のとおり速やかに行動し売却に至っており、売却までの諸手続は、伊井名義及び被相続人の遺産である本件土地を売却するには、避けて通れない必要な手続であった。

また、本件土地が遺産である上、分割協議後も四名の共有となるなど、各手続には四倍の手数と時間が必要であることは明らかであり、未分割財産乃至共有物であることによる利用及び現状の変更には、反対(前記伊井の妻も共有者の一人である)が容易に予想される状況では、事業停止後速やかに売却し、買換資産を取得する以外、上告人には得るべき途はなかったことも看過されてはならいな。

以上のとおり、原審判決は重大な事実誤認乃至法令解釈適用を誤った違法があり、破棄されるべきである。

以上

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